観察映画 「港町」

観察映画 『港町』

想田和弘監督のドキュメンタリー映画『港』を見ました。
物語の舞台は、タイトル通り「港町」。岡山県の牛窓です。監督自身が「観察」をキーワードにした「観察映画」というドキュメンタリーの作法によって、画面には、町で暮らす何者でもない普通の人々の生活の様子が映し出されます。

腰の曲がって、陸では、歩くことも話すこともおぼつかない高齢の漁師が、小さな漁船の上で、艪(ろ)捌く滑らかさや、網のロープを素早く結んでいく、巧みさ。漁協で競り落としたその魚を、流れるようにおろしていく町の魚屋さんの美しさ。軽トラに乗せた魚を個別に売り歩くお母さんとお客さんの何気ない会話。

映画の中で、何度も登場する老婆との、かみ合わない会話や、繰り返される同じ内容の話。一見、田舎によくいるタイプの、噂話好きで、意地悪そうな印象の女性ですが、彼女の話を繰り返し聞いているうちに、彼女が心細そうな少女のように見える瞬間があって、不思議な感じがします。

美しいモノクロームの映像は、時代を飛び越えます。宮本常一の民俗学の本で、古代や中世、近世、近代の集落の話を読んでいるような錯覚に陥りますが、これは紛れもなく現在のお話。

掘り下げていくことで、社会全体や日本が見えてくるということは、まさにこういうことだなぁと感じました。そこにあるのは、過去から現在まで脈々と繋がってきた日本人や社会の姿だし、登場しているのは私の祖父母であり両親であると思いました。

今まで、続いてきた風習や社会も、この世代の寿命と共にそのつながりが、失われてしまうことに、やはり寂しさがありますが、それを記録しておくことの重要性を改めて感じました。