埼玉県入間市の歴史的建築物をコミュニティ施設に改修

みんなのワクワクを紡ぐ【入間市文化創造アトリエ AMIGO! (アミーゴ)】歴史的建造物のリノベーション

埼玉県の入間市に、誰もが自由な発想で創造の可能性をひろげている「芸術文化施設」があります。それが【文化創造アトリエ AMIGO(アミーゴ)】。かつて歴史的な繊維工業試験場だった建造物を、市民が利用できるコミュニティ空間にリノベーションした施設です。敷地に元々あった管理棟、工場棟、研究棟、宿直室、倉庫などの建築群。それらの特徴を生かし、多くの人々が集う空間づくりのために再構築していきました。平成13年のオープン以来、自由で創造的な文化活動や、文化的なまちづくりの原動力を担う市民の活動の場として活動されています。

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埼玉県の歴史的な繊維工業試験場→新しい発想が生まれる、市民のためのコミュニティセンターへ

なつかしいのにあたらしい、わくわくするような仕掛けに満ちた場所が誕生しました。市の文化施設ですが、今までの公民館とも市民ホールとも、まったく違う。市民による市民のための自由な創造空間を作ろう、という画期的な試みです。

AGIMO 5(旧工場棟) ホールの写真・詳細はこちら→

埼玉県入間市。西武池袋線仏子駅から歩いてすぐ、道の正面に、壁面にカラフルな旗が翻る大きな平屋の建物。平成13年2月にオープンした入間市文化創造アトリエ『AMIGO:アミーゴ』は、埼玉県繊維工業試験場をリノベーションした建物です。1998年に試験場が閉鎖され、敷地・建物の管理が市に移管されたことから、計画がスタートしました。「壊してまったく新しい施設にしようという意見もありましたが、かつて繊維産業で栄えた歴史を刻む建物の存在価値を尊重し、市民の皆さんにとっての思い出の風景を残していくという意味でも、リノベーション案は、自然な流れでした。

大人も子どもも、みんなが自由に利用するコミュニティー施設へ〜リノベーションに向けて建物の構造や腐食の度合いを調査〜

最初に建物に出会ったときは手入れは行き届いていたものの、かなり老朽化が進んでいました。しかし、天井裏や床下に潜って、建物の構造や腐食の度合いを調査したところ、構造体は乾燥していて、保存状態も良いことがわかりました。難点は、工場施設として使用されていた施設だけに、不特定多数の人たちが利用するコミュニティー施設としての活用がしにくい面があったことです。しかし、より老朽化が進んできた2棟のみを解体し、敷地の中央に空地をつくることでその問題を解決しました。

施設の内と外が、ゆるやかに繋がり、人や活動が行き交うことで、より自由で楽しい文化的な活動が展開されていくことをイメージしました。

施設全体配置図の様子・写真はこちら→

デザインは脇役、主役はあくまでも機能美〜工場リノベーションならではの特徴を最大限に生かす〜

本館、サロン、ギャラリー、ホール。約5000㎡の敷地に点在する1棟1棟に、昔のペンキ板やガラスなどがさりげなく生かされ、時代の匂いがそのままに残されています。この建物のいい点は、工業というハードな目的で建てられているので、余計な装飾がないこと。古ぼけているけど、骨格はしっかりとした『老雄』。そこでデザインは脇役にして、主役はあくまでも機能美に。古さ、時間、歴史を『粋』に『ポップ』に残しました。この『ポップ』というのがポイントで、ただ古くて重厚だと建物が尊大になって、使う人に馴染まなくなるからです。

AGIMO 5(旧工場棟) ギャラリーの様子はこちら→

東洋医学的なやさしい手直し〜古い建築物が持つ魅力を消さないリノベーション〜

予算が少なかったことも、逆に幸いしました。そこで『使い継ぐ』ことをコンセプトに、西洋医学的なデカイ手術はせずに、東洋医学的に本当にやさしく手直しをすることを心がけました。すると簡素なテコ入れをしただけで、枯れかかった草木が水を得たように建物が生き生きしてきます。節約、倹約の精神で、工場で使っていた台車を収納にうまく利用するなど、知恵もフルに発揮しました。建物の改修工事費は、施設・設備費・外構工事まで含めて、約2億6千万円。こうした施設では破格の低予算です。

AGIMO 3 サロンの様子はこちら→

また市役所と独楽蔵のアトリエが近かったこともあり、市の担当者の方と、打ち合わせを細やかに重ねながら計画を進めることができたことも、理想的でした。改修前から再生する過程で、同じ担当者が寄り添ってくださることは貴重であり、とてもありがたいことでした。

AGIMO 4(旧研究棟を解体した空地部分) パティオの様子はこちら→

AMIGO 施設正面・フロントはこちら→

発想の転換で、デメリットをメリットに〜自然のチカラを味方につけるリノベーション〜

AMIGOは、新築では決して生まれない味のある建物ですが、いわゆる現代的な機能が備わっていないという問題もあります。例えば、ほとんどの建物には空調設備がないのですが、市民の皆さんからの苦情はないのだそうです。たとえば夜に開催された舞踊のイベントでは、観客が風が気持ち良いと外で寝転がりながら見はじめたり、星が見えると喜んだり。寒い日のコンサートでストーブを出したら、味わいがあると喜ばれたり。足りないモノが魅力になる、不思議な力に満ちています。

AMIGO 2(新築) スタジオの様子はこちら→

施設の不備を逆手にとって、近くを流れる川や原っぱ、風、雨、雪といった自然を味方につけるという逆転の発想が、空間全体を包んでいます。

AMIGO 1(旧管理棟) 管理棟の様子はこちら→

市民のために誕生し、現在も市民の皆さんのチカラによって、自由で活気のある生きた施設として、成長しつづけているAMIGO(アミーゴ)。リノベーションが計画されていた当時のイメージをはるかに超え、さまざまな方がユニークな発想で活用し、ワクワクする空間に育ていることが、“使い継ぐ”リノベーションの素晴らしさなのだと思っています。

AMIGO施設 活動の様子はこちら

『入間市文化創造アトリエ AMIGO 施設正面 フロント』の紹介ページはこちら
『入間市文化創造アトリエ AMIGO 1 管理棟』の紹介ページはこちら
『入間市文化創造アトリエ AMIGO 2 スタジオ・AMIGO 3 テラス』の紹介ページはこちら
『入間市文化創造アトリエ AMIGO 3 サロン(洋)・オープンキッチン』の紹介ページはこちら
『入間市文化創造アトリエ アミーゴ AMIGO 4 パティオ』の紹介ページはこちら
『入間市文化創造アトリエ AMIGO5 ギャラリー(旧工場棟)』の紹介ページはこちら
『入間市文化創造アトリエAMIGO 5 ホール(旧工場棟)』の紹介ページはこちら

『入間市文化創造アトリエ アミーゴ』 活動の様子

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掲載誌:建築設計資料 98・用途変更 改修刷新・保存再生・コンバージョン
掲載誌:チルチンびと/2001 AUTUMN 18号 特集 「工場の歴史を残し、使い継ぐ知恵と精神」

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