演劇を見て空間(建築)を考える

阿佐ヶ谷スパイダース「老いと建築」を見てきました。

阿佐ヶ谷スパイダースの「老いと建築」を見に吉祥寺に・・・。舞台を見るのも電車に乗るのもずいぶん久しぶりで、10代の頃、初めて東京に行ったときのように、足元が浮いているようなちょっとふわふわした不思議な感覚でした。

演目は、不機嫌な老婆が暮らす築30年くらいの家(建築)と家族のお話です。現実の空間と彼女の記憶の中の空間、現実の登場人物と記憶の中の人物、過去と現在の時間が複雑に混ざり合いながら、物理的な空間も変化していきます。主人公は、加齢による痴呆の可能性もありますので、舞台上で起こっていることは、実際には全て彼女の頭の中の出来事かもしれません。現実か妄想なのか、わからないまま家(建築)と家族が再構築(リノベーション)されていくというストーリーです。

とても演劇的で空間の奥行きを感じさせるストーリーで、物語の中で増殖したり変化していく空間を想像しながら、長塚圭史さんの頭の中も巡っている感じもして、楽しかったです。

物語は能作文徳氏のご自宅兼事務所である「西大井のあな」という建築物から受けたインスピレーションを受けたことから創作されたそうです。私はその建物を知らなかったので、後で調べて見てみましたが、確かに物語のイメージが湧いてきそうなリノベーションの建築物でした。増殖する建築だと岡啓輔さんの「蟻鱒鳶ル」(アリマストンビル)が思い浮かびますが、「西大井のあな」は、まさに物語と同様に再構築というイメージ。

家を建てた建築家も登場します。「大豆田とわ子」の松たか子や「協奏曲」の田村正和、木村拓哉、「結婚できない男」の阿部寛などドラマに登場する建築家は、みなかっこよくて素敵な暮らしをしていますが、「老いと建築」に出てくる建築家は、優しく話を聞いてくれそうなカウンセラーのような存在です。実在の(知り合いなどの)建築士がモデルになっているような気もしますが、なんとなく、中村好文さんをイメージしてしまいました。

主人公が老婆ですので、訪問介護やバリアフリーの様子も出てくるのですが、現在進行形の自分の仕事(デイサービスの建設プロジェクト)などで普段考えていることとも関連性があって、(この公演のことを教えていただいたのも、そのクライアントさんでしたし・・・)ちょっと不思議な感覚でした。

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