「生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由がある」(岡壇著)を読んでコミュニティについて考える

「生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由がある」(岡壇著)を読んでコミュニティについて考える

建築雑誌「新建築」の書評で、建築家の西沢大良さんが選書されていた本「生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由がある」(岡壇著)を読んでみました。

徳島県海辺町は、周辺の町村とよく似通った豊かな自然と温暖な気候で、夏にはサーファーと帰省者で町の人口が一時的に増加します。かつては農業や漁業、林業などの第一次産業がさかんでしたが、昭和の高度成長期の後に徐々に衰退した、日本のどこにでもあるような田舎町の典型のような町です。それなのになぜかこの町だけが、突出して自殺発生率が低い。その理由を町に関わりながら探していく内容の本です。

① コミュニティと自殺率の因果関係がわかれば、自殺が少ない理由を探ることで、これからのコミュニティーの作り方が変わるかもしれない

筆者は地域の社会文化的特性が住民の精神衛生にあたえる影響を明らかにしたいと考えている研究者。特にコミュニティの特性と自殺率の関係に興味を持っていたそうです。自殺に関する地域研究は、以前から多く行われているそうですが、研究のほとんどは、「自殺率の高い地域」とその理由(自殺危険因子)を扱うもので、自殺が少ない理由を探る研究は皆無に近かったらしいです。

もし、コミュニティと自殺率の因果関係がわかれば、自殺が少ない理由を探ることで、これからのコミュニティーの作り方が変わって、予防ができるかもしれません。

海辺町に隣接するA町も、同じような田舎町で、一見、海辺町とも違いがないようにみえますが、なぜか自殺発生率は高い。筆者は海辺町とA町と比較しながら、海辺町の自殺発生率が低い理由を探し出していきます。

② 歴史的背景によって違う町の成り立ちとコミュニティ

海辺町は、江戸時代の初期、材木の集積地として飛躍的に隆盛しました。大坂夏の陣のあと、焼き払われた近畿圏からの大量の木材の需要が発生して、短期間の大勢の働き手が町に集まってきました。ですから、この町は、周辺の農村型コミュニティと異なり、多くの移住者によって発展してきた、いわば地縁血縁の薄いコミュニティであるといえます。こうした歴史的背景による住民気質により、海辺町は、「いろんな人がいてよい、またはいろんな人がいたほうがいい」という多様性や、場の空気を読まなかったり、誰にも忖度しない人物自身の能力で判断する「人物本意主義」が培われてきたのではと推察されています。

自殺に関する先行研究では「人々の助け合いが根づく環境が自殺の危険を緩和する」要素として挙げられることが多いそうですが、海辺町、同様にA町にも「助け合い」の精神や「社会的支援」「ソーシャルサポート」が日常の生活に組み込まれています。そこで筆者は同じ「助け合い」という言葉でも、その本質や住民意識に、地域によって差異があるのではないかと仮定して、問題を解いていきます。

③ 従来のコミュニティ論の見直しが必要かもしれません

評者の西沢さんが指摘するように、建築界におけるコミュニティ論は、ほとんどA町のような「人の繋がり」、「日々の助け合い」、「絆の重視」のモデルを目指していてきたといわざるをえません。この本を読むと、1960年代から提唱され、2011年の震災にも盛んに唱えられた、A町のようなコミュニティのモデルは、想定を間違えていた可能性が高いのではという結論にいたります。今後のコミュニティづくりをより良くする意味でも、建築界にとって必読だの本だといえます。

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