『共通言語』の必要性がよくわかる。おすすめの本

『岡田メソッド』岡田武史と『パタン・ランゲージ』クリストファー・アレグザンダー

『共通言語』の必要性

『岡田メソッド』とは、主体的にプレーできる自立した選手と自立したチームを育てることを目的とした、サッカーの指導方法論の体系です。

サッカーで勝つための『岡田メソッド』ですが、岡田さんは、最終的には「サッカー界のみではなく、自分の人生を主体的に生きることができる日本人を輩出する仕組みをつくる」という大きな目標を持たれています。実際に彼がオーナーを務めるFC今治では、自身のサッカーチームはもちろん、今治の学校や街も連携して、小さな地方都市を活性化する試みが大きくなりつつあるようです。

将来、サッカーのコーチや指導者になる予定はまったくない私ですが、この岡田さんの理念に共感して、この本を読んでみることに・・・。

『岡田メソッド』では、16歳までに『プレーモデル』(プレーの原則を体系化したもの)を身につけることが、重要だと考えます。そうすることが、その後、いろいろなチーム戦術に従ってプレーするときに自分の良さを発揮したり、状況に応じて柔軟に対応し、生き生きとプレーが出来る「自立した選手」になるための最良の方法であると。

その『プレーモデル』を指導、議論、理解する場合に必要となるのが『共通言語』です。たとえば、サッカーでよく使われる「クサビ」や「プレス」などの言葉は、『共通言語』であるように感じられますが、実際はひとりひとりの言葉に対するイメージが異なっていて、バラツキがあります。

全員が理解する『共通言語』を新たに定義することで、互いに『プレーモデル』の共通理解が進み、プレーの判断や予測が容易になります。

『パタン・ランゲージ』との共通性

本を読んでいて「これ、まさに『パタン・ランゲージ』じゃん!」と思いました。

『パタン・ランゲージ』(1977年、邦訳1984年)は建築家クリストファー・アレグザンダーが提唱した建築・都市デザインのための共通言語(ツール)です。アレグザンダーは人々が「心地よい」と感じる環境(都市、建築物)を分析して、253の「パタン(原型)」を挙げました。

これらのパタンを選択的に使って設計・建設することで、良好な環境に備わっている「有機的秩序」(全体と部分とが相互に関連し合うような秩序)を生み出すことができるとする考えです。また、パタンは理解しやすいことから、近代における都市計画の効率主義を批判し,専門家がもつ暗黙知を目に見える形(形式知)にして,専門家の独善による設計ではなく、誰もがデザインのプロセスに参加することができると考えられている。(253のパタンは、あくまでも暫定的なモノであり、クリストファー自身、それが改良されたり、増えることによって、ランゲージ(共通言語)が追加、改善されることを望んでいます。)

松岡正剛さん曰く、

アレグザンダーにとって、パターン・ランゲージをつかった町や建築やデザインや環境設計は、社会と人間のあいだを出入りする言語活動にほぼ匹敵している。単語やフレーズにあたるどんなパターンも、それらが置かれた場面(シークエンス)や文脈(コンテキスト)に結びついていて、次々にそこに出入りするパターン群によって多様な意味をもたらしていく。それゆえそうしたパターンの集まりで構成されるパターン・ランゲージは、網目のように相互作用をしあうネットワーク構造になる。都市であれ住宅であれ、一個の部屋であれ庭であれ、窓であれ棚であれ、アレグザンダーはそのネットワーク構造をさぐることからすべてのデザインが始まると考えた。

とおっしゃっています。

独楽蔵においての日々の設計業務では・・・

独楽蔵において、日々の設計常務で、直接的に『パタン・ランゲージ』を用いて、計画を進めることはありませんが、頭の中では自分の過去の学びや経験から導き出した要素(パタン)を組み合わせながら、デザイン(ランゲージ)を導き出していることは間違いありません。ただ、そのパタンは、独楽蔵の中のもので、万人にわかるような『共通言語化』がされていないことに気がつきました。これを早急に『共通言語化』しておくことは大事なことかもしれません。

ちなみに『パタン・ランゲージ』の応用例としては、慶應義塾大学SFC総合政策学部教授、井庭崇氏の「プレゼンテーション・パターン」「社会改革としてのパタン・ランゲージ」「創造的な学びのパタン・ランゲージ」などの他の分野の試みもあります。

川越市では、67のパターンからなる「川越一番街町づくり規範」が作成されて、まちづくりのルールをして使用されています。また、アレグザンダー自身による実践に、1982年の木造建築による東野高等学校(埼玉県入間市)の設計があります。ここでは、学校関係者がパターンを見つけ、キャンパス計画が作られました。なぜか、両方とも、事務所からかなり近い場所です(笑)

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