7月に帰省した折、開館したばかりの「鳥取県立美術館」を訪れました。
これまで鳥取県には県立美術館が存在せず、また全国に誇れる現代建築も限られていた。しかし今回、ようやく公共建築としても評価に耐えうる水準の施設が誕生した。(もちろん、投入堂や歴史的建造物、モダニズム建築など特異な空間は存在していたが。)
鳥取県立美術館ー最後の県立美術館にみる、建築の持続性と公共性
7月に帰省した折、開館したばかりの「鳥取県立美術館」を訪れました。
これまで鳥取県には県立美術館が存在せず、また全国に誇れる現代建築も限られていた。しかし今回、ようやく公共建築としても評価に耐えうる水準の施設が誕生した。(もちろん、投入堂や歴史的建造物、モダニズム建築など特異な空間は存在していたが。)
設計は槇文彦氏率いる槇総合計画事務所である。美術館の基本コンセプトは「OPENNESS(開放性)」であり、それは氏の言葉「文化とは無償の愛ではないか」にも通底する。
外形は特別な素材や豪奢な仕上げ、奇をてらった造形を避け、控えめな印象を与える。しかし、平面計画および立体構成は精緻に構築され、周囲の風景や遺跡、既存施設を巧みに取り込みながら、高い回遊性をもつ空間が展開されている。無料で開放された内部と外部の諸空間は、偶発的な交流を誘発し、地域文化を醸成する基盤となる。

鳥取県立美術館の外観
た、建物は耐久性やメンテナンスにも配慮され、必要な場所にはしっかりと屋根がかかり、広場があり、ベンチがある。時代の変化に応じて形を変える柔軟さを備えながらも、年月を経ても古びない「王道の建築設計」といえるだろう。
このプロポーザルは槇氏にとって最後の公開プレゼンテーションとなり、2024年3月の竣工を見届けた数か月後、氏は逝去された。美術館の完成は、ひとつの建築的遺言として位置づけられる。

さらに本事業は、美術館としては国内初のPFI方式によって実施された。PFIとは、公共建築に民間資金とノウハウを導入し、建設後の維持管理や運営までを一体的に担う仕組みである。従来は病院、学校、庁舎、上下水道施設などで導入されてきたが、美術館での適用は前例がない。今回はBTO方式が採用され、民間が建設を担い、竣工後に行政へ所有権を移転、その後も一定期間は民間が運営を行う。
建築は単なる竣工で終わるのではなく、長期にわたって地域社会の中で存続し、意味を更新し続ける器である。鳥取県立美術館の構えは、私自身が設計活動の中で重視している「暮らしに寄り添い、自然や人の営みと共に育まれる空間」と軌を一にしている。時間をかけて開かれていく場所、その余白や回遊性にこそ、文化を育む力が潜んでいる。
全国で最後に誕生した県立美術館であるがゆえに、逆に新たな制度的・空間的挑戦が可能となったとも言える。課題は少なくないものの、この建築がどのように地域に根付き、人々に育まれ、やがて風景そのものへと昇華していくのか、その行方を注視したい。
