設計士が建てた家に住むひとの日常
【暮らしnote No.03】
建築士の夫が建てた家に住む妻から見える日々の暮らし
writing:maiko izumi

【冬の朝日が部屋の奥まで入ってくる】
犬の散歩の帰り道。
玄関先の草花の手入れをしていたご近所さんと、たわいのないおしゃべりをしていると「私の地元の美味しいもの、あげるわね」と、鹿児島の金柑(きんかん)を持たせてくれた。
関東育ちの私には、フルーツ金柑というのは、あまり馴染みがなかった。
幼い頃に、祖父母の家の庭になっている金柑を食べて、その独特の苦味を受け止められず、それ以来なんとなく敬遠していた。

【家の脇を流れる川で拾ったビーチグラス】
でも、今日いただいた金柑は、ツヤツヤと黄金色に輝いていて、美しい宝石のようだった。
これは、私の記憶の中の金柑とは、明らかに違う予感。
「食べてみて」金柑は、キラキラとした顔をして、そう囁いてきた。
ヘタをとって、丸ごとそのままの金柑を、そっと齧ってみる。
口の中で爽やかな酸味と素朴な甘味、心地よい苦味が、パッとはじけて、ひろがった。
張りのある果肉は、みずみずしくて、からりと明るい遠い地の、太陽の味がした。

一瞬で、私の金柑の概念は塗りかえられた。
小さな粒に、ぎゅっと生命力がつまっていて、元気玉をもらったようなうれしさだった。
夢中で、何個も頬張った。
自分の思い込みなんてちっぽけで、えいっと外に飛び出てみると、自分ではない誰かや、何かが、知らない世界を教えてくれる。
金柑は美味しいよ、とか。
あれはカワセミの鳴き声だよ、とか。
この雨は、じきに止むよ、とか。
なにも地の果てに旅しなくたって、日々の暮らしは、旅のように、おもしろいものだ。
金柑ひとつで、私の世界は変わる。
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WORKS:【川を感じる有機的な暮らし】 建築士の自邸・高麗川沿いの新築木造一戸建て(埼玉県日高市)
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