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石州瓦(赤瓦)の集落(岩見地方)と風土的な特性や出雲地方との繋がりについて

国道9号線は、京都から山陰地方を経由して山口県下関市に続く国道で、総延長約650km、日本で2番目に長い国道だそうです。山陰地方を通過する区間は、日本海の海沿いをJR山陰本線と併走しているところが多いです。 松江市(島根県東部)と益田市(西部)の距離は約200km、途切れ途切れの高速道路と国道9号線を併用して、車で約3時間です。海沿いに若干の平坦部のある出雲地方を過ぎて、石見地方に入ると、山がかなり海側に迫ってきている印象です。

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石州瓦(赤瓦)の集落(岩見地方)の街道沿い

国道9号線 隧道と隧道の間の小さな赤い石州瓦の集落

9号線の岩見区間を走行したのは初めてでしたが、短い間隔で連続する短い隧道。その隧道と隧道の間に小さな集落が散在している様子で、同じ山陰の鳥取県とは車窓の風景が随分違って見えます。 また、同じ島根県でも、出雲地方と石見地方では随分違うなぁ・・・という印象で、やはり、もともと國が違うことや、東西に繋がるのが物理的に困難であるいうことが、実体験としてわかったような気がしました。 雰囲気の違いは感じますが、古い集落の赤い石州瓦の風景は、互いの共通点の一つかもしれません。

石州瓦の特徴 一般的な瓦(銀瓦、三州瓦など)との違い

石州瓦の一番の特徴は、その焼成温度にあり、1200度以上で焼成されます。一般的な瓦(銀瓦、三州瓦など)は、900〜1100度で焼かれますので、これはかなり高いだといえます。 燃焼温度が上がると、それぞれの粒子が結晶化して、せっ器や磁器の性質に近くなり、固く、水を通さず、凍害に強いなどの・・・、特性が生まれます。 結果、長い時間のスパンにおいて変質しない、耐久性のある瓦になります。

日本全国の寺社仏閣などで、よく使われる瓦に「いぶし銀」(三州瓦が多いですが)がありますが、その焼成温度は、1000〜1100度。吸水率は、30〜15%とやや高く、雨が降ると少し水を含み、いわゆる濡れ色になります。 これには、水を含むことによって、その蒸散作用で屋根を冷やすという作用があり、温暖な地域や雨の多くない地方に適した夏を意識した素材ともいえるかもしれません。

その反面、「いぶし銀」は、日本海側の豪雪地帯や北海道などの寒冷地方では、凍害のために割れる事もあったそうです。(以前のことなので現在は違うと思いますが・・・)ですから、石州瓦は、日本海側の豪雪地帯や北海道などの寒冷地方でシェアが高い瓦です。 ちなみに、レンガや素焼きの焼成温度は、もっと低くなって800〜900度。スペイン瓦や素焼きの壺なども、気化熱によるクーリング作用がより働くようなイメージだと思います。どの瓦がベストというのはありませんが(好みもありますので・・・)、これからの時代的には、その地域の風土にあった素材を使用するほうが、よりベターな気がします。

土によって違う瓦の焼く温度

それでは、なぜすべての瓦を高い温度で焼かないのか?という疑問を生じます。 通常の土は1300度で焼かれると、瓦自体が、割れたり、ねじれたり、壊れたりするそうなのですが、偶然にも岩見地方で採れる土(都野津層といわれる粘土層)は、高い温度でも問題なく生成できるそうです。そういう意味合いにおいて、[島根県芸術文化センター:グラントワ] の外装の殆どの部分が、石州瓦(赤瓦)に覆われていることは、大変意義深いと思いますし、建築的な意味でも理にかなっています。風土のあらわれた唯一無二の空間だと思います。

ちなみに、この石州瓦、最近では通常、燃料や難易度などの問題から約1200度で焼成しているそうですが、[島根県芸術文化センター:グラントワ]の瓦は、昔の生燃焼温度の約1300度で焼かれているようです。また、大壁面に瓦を使用することも今までと違う使い方です。伝統的な素材には、常にこういった新しい挑戦が必要だと感じるいい例だと思います・・・。

岩見と出雲の異なる地方(文化)の材料の融合

また、これも偶然なのですが、石州瓦で使う釉薬には、同じ島根県の出雲地方で採れる来待石の粉末が混ぜ込んであり、1100度以上の熱で加熱すると、その釉薬の石英質が変質して瓦の表面をガラス状にコーティングするそうです。 これが、さらに瓦の耐久性を高めます。釉薬の来待石が鉄分を多く含んでいるため、赤い瓦の色になるそうです。

岩見と出雲、違って見える2つの国の素材が、組み合わさることによって、石州瓦というすばらしい材料が出来ていることを知ると、本当の意味で風土に根ざした材料であるこの瓦の風景が少し違って見えてきますし・・・、少し誇らしい気持ちになります。

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