生火を使う生活が、家の中から消えたのはいつからだろう。最近は、薪ストーブを備えた家を街中でも見受けますが、ともすれば居間の飾りに終わってしまいます。せっかく生火の良さを知っているのなら、ちょっと工夫して生活に生火を蘇らせてみるのも、現代の豊かさの1つかもしれません。親から子へ。街中の火のある暮らし。
火のある暮らしに一族が集まる
東京から西へ、電車でおよそ1時間。しばらくすると、車窓の眺めは畑や雑木林が点在する風景に変わっていきます。都会と田園が複雑に交差する、ここ埼玉県入間市。最寄りの駅から5分ほど歩いた区画地の一角に関谷さん一家は家を建てました。7人兄弟の四男に生まれ、父の左官業を受け継いだご主人。千葉で育ち、関谷家に嫁いてきた奥さんは下着販売を営んでいます。「主人の兄弟は仲がよくてね、正月や、お盆とか普段でもよくこの家に集まって、酒盛りが始まるのよ。それに加えて私たち女房でしょ、それから、こどもたち」。ざっと数えて30人。いまどきこんなに大勢の身内が集まる家もめずらしい。だから、「日当たりがよくて、とにかく広い部屋が欲しかったの」。ふだんは、家族の場として使われる広間には、台所のダイニングテーブルとカウンターが一体となった食卓に、直径が35cmの囲炉裏が切られ、台所の隣では、薪ストーブが火が揺れています。

2階リビングのメリットのひとつが、梁などの構造材を表して、屋根いっぱいまで天井を高くとることができること。間取りでの水平面の広がりに、天井の高い縦の広がりがプラスされて、より開放感のある空間が出来上がります。



生火を使う食卓と対をなす台所は、大きな食器庫を備え、外には食材や薪をおける広いキッチンバルコニーも作られています。家族の場と床のレベルに段差をつけ、調理加工の台所と、火場である薪ストーブのコーナーと、飲み食いの場である炉をきった食卓が一体化した空間は、この家の火のある暮らしをもっとも象徴的に表している場所です。


薪ストーブ・キッチン・テーブルの関係性
キッチンとダイニングは、家族の場(リビング)と床のレベルを変えてある。南に面した大きな開口部からは、人工地盤を利用した屋上庭園の芝と木々が見える。

薪ストーブ廻り
黒い玄昌石の壁を背景にゆらめく炎。薪ストーブコーナーの壁や床に張った玄昌石は、火の粉や灰に強く、汚れても簡単に掃除できる

囲炉裏テーブル廻り
使い込まれた囲炉裏テーブルに美味しそうな食材が並ぶ。炭火で焼くと味わいも格別だとか。

リビングと和室、庭(人工地盤)の関係性
リビング奥の戸襖を4枚引き込むと、奥の和室(8畳)と空間が一体化

テーブル スポットライト

神棚・火の神様・台所の神様
薪ストーブの上の神棚に祀られているのは、関谷さんの家に伝わる守り神。真ん中が火の神、荒神様。火のある暮らしを子どもたちに伝え、大神宮と火の神さま、蛭子大黒の神棚に家族で1年の無事を祈る。こんな風景も今では珍しくなりました。
雑木の庭に季節が溜まる。たき火の煙は、この家の四季を通じた風物詩
春夏秋冬。朝昼晩。ぐるっと巡って、この庭で遊べます。木の枝が近くて、涼しい風が吹く人工地盤の芝庭は、湿気のないカラッとした見晴台。雑木の庭で薪割りに疲れたら、2階の人工地盤の芝庭に上がって、ゴロンと寝転ぶのも気持ちがいい。青空が広がり、ずっと向こうまで見渡せて、爽快な気分になります。

人工地盤の上の芝庭。
階下の樹木の木立もより目線に近く、身近に四季を感じることができる庭です。

和室の開口部(手前)とリビングの開口部(奥)

人工地盤の芝庭








2階和室(家族の場と続き間になっています)

和室から庭を見る。和室の前の三角形の濡れ縁は、月見台をイメージしたモノ。

2階の犬走り(人工地盤の芝庭と室内の間)
リビングの漆喰、和室の京壁、犬走りの仕上げは、すべて左官業を営む関谷さんの手によるもの。

ポスト(制作モノ)

2階玄関

2階へのアプローチ階段
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その後の暮らし:【生火をあやつり使いこなす3世代の住まい】
掲載誌 住宅建築/1997年12月号 特集 特集 「早く家に帰りたい」 近作5題
掲載誌 チルチンびと/2007 MARCH 41号 特集 「火を囲む暮らし」
掲載誌 新しい住まいの設計 1999/6・室内増刊:まるごとキッチン