福岡県太宰府市の木造新築住宅 設計事務所のデザイン

敷地は福岡県太宰府市、筑紫野市と古賀市を結ぶ主要県道沿いにあります。敷地は、交通量の多い県道から、3m程度高い位置にあって、道路に並行に北東から南西側に伸び、北側の背面には山が迫っています。住宅は祖父祖母世代から暮らしているこの土地で、改造や増築を繰り返しながら、家族の人数や時代に合わせて、新しい暮らしをつくっていきます。

現在、この家に暮らしているのは、施主の松尾さん夫妻、そして、ご主人のご両親、娘さん夫婦に孫二人。四世代、合計8人の大家族です。それぞれの世帯の暮らしに合わせた大改造を10年ぶりに行います。

1999年に母屋の隣に木造2階建ての住宅を新築しました。東京で働いていたご夫婦が故郷の両親と隣居するための家です。今回は、古くなった両親の家（母家）を解体して、前回、新築した住宅に、ご両親のスペースを増築する形で計画しました。元の家を中心にして、左右に両親の居室ゾーンと仏間ゾーン（来客スペース）を振り分けました。

10年前に作った「家族の場」＋お父さんのワークスペース

元々の家と今回の増改築の設計を手がけたのは埼玉県に事務所を構える設計集団「独楽蔵：こまぐら」。松尾さん夫妻は、独楽蔵が設計した埼玉県浦和のギャラリー＆日本茶喫茶「楽風：らふ」の常連でそのおおらかな作風に惹かれていたそうです。

リビングとその脇のワークスペースは10年前の新築のまま。家の中心であるリビングから、祖父母のスペース、キッチン、玄関土間、階段などへの導線を再構築していきます。

導線の再構築の結果のフローリングのパッチワーク

10年前新築した住宅と、今回増築の床（ヒノキ無垢材：同材）の時代を重ねたパッチワーク

今回の改築の際、独楽蔵の提案で導入したのが、薪ストーブのある土間。正式な玄関は別にありますが、こちらは普段使いの土間玄関として、ワークスペースの脇に配置。家族のスペースと祖父のスペースの間に位置して、それぞれの空間を緩やかに繋いでいます。

土間玄関は、大きな木製のガラス引き分け戸を開けるとデッキテラスと一体空間に。来客も直接アクセスできるので、接客スペースや第2のリビングとして活用可能です。

ご主人は地域の会合などを手伝っているので、よく家に人が集まるそうです。以前は、お客さんをリビングに通していましたが、広い土間で応接することで、プライベートと分けられるようになったということです。

「私たちの世代だと、子どもの頃はまだ、薪や火は身近なモノでした。でも、当時は薪なんで労力の象徴だった気もするんですよ。」と松尾さん。「でも、ストーブを入れたら、父が『昔はこうだった』ってとても喜んでね。そして、孫も『これ薪にしよう』と木の枝とか拾ってくるんですね。薪ストーブがあることで、さまざまさなことを伝えられるような気がします」

火のまわりで交わされる会話は、父母から子へ祖父母から、ひ孫へと世代を超えて暮らしの知恵や文化をさりげなく伝えている。

台所は、リビングと土間玄関の間に移動。採光を確保した明るいキッチンに。

キッチンには食器庫と収納棚つきの勝手口を付随。造り付けの神棚もキッチンに配置しました。

キッチンの背面、造り付けの食器棚の脇には、楕円形のテーブルがついています。料理の手伝いや配膳ができたり、お母さんの日常のデスクとしても活用できます。

違い棚が並ぶ食器庫の内部

造り付けの収納の内部もきれいに整理整頓されています

薪ストーブは東京で暮らしていた娘さん夫婦も呼び寄せる。「以前から子どもたちのためにも、おじいちゃん、おばあちゃんの近くで子育てしたいと思っていたんです」と若夫婦のご主人。「当初は別に家を借りて住もうかと思っていたんですが、薪ストーブが入るって聞いて、住まわせてもらおうかなって」とおっしゃる娘さん。

松尾さんの薪ストーブや囲炉裏は、ちゃんと『背景』のある人生を送っていると思います。今のように薪ストーブが人気になる前から、独楽蔵では竈や囲炉裏など火のなくなった現代の住宅に「火場」を積極的に取り入れてきました。食事にしてもお風呂にしても、火を使うためには、薪を集め、割り、火を熾すという「背景」があります。

火場は、この生活から消えてしまったこの背景、言い換えれば『生活の活力』を新しい形で生み出す場所です。そして、住み手の松尾さんは、それを「生活を楽しむ場所をつくってくれた」とおっしゃってくれました。

パブリックな土間玄関の前は、広めのデッキテラス

新規アプローチ

姉と弟

既存アプローチ

既存玄関ポーチ

既存玄関