民家の改造10年目 納戸を改装した新しいリビングには、存在感のある薪ストーブ
かつて囲炉裏があった築150年の古民家。改修で薪ストーブとして火が戻ってきた。家を暖めるのみならず、火はその周りに人を集める。
従来の和室続き間、客間ゾーンはそのままで、日常使いの家族ゾーンは、使いやすく暖かに・・・。
鈍く光る大黒柱や梁、至るところに長年の記憶が刻まれた築約150年の家を、お母さまと娘さん、息子さんは大切に住み継いできた。18代目の息子さんは会社勤めだが、もとは林業や養蚕を営んできた家系で、今でも自分たちで食べる分の野菜は畑で作っている。
飯能市の山里に根づき、先祖代々暮らしてきた愛着のある家。だが、不便に感じることもあった。水回りは傷み、冬の夜には、布団を目深にかぶるほど寒さがこたえた。「夏を旨とする、そんな家なので冬は本当に寒くて。けれど、ここまで古いと壊すのはもったいない」。家族の思いを受けたのは、隣の入間市の設計事務所:独楽蔵(こまぐら)だ。「古いものと新しいものを喧嘩させる。もう年だからいいや、という古い家に、新しいカタチで刺激を与える」。
そんな独楽蔵の手法に、来訪者はまず、玄関土間でハッとさせられる。鮮やかな色彩でデザインされた下足入れが、既存部分やその古色とともに、目に飛び込んでくるからだ。2階でもまた、煤けた土壁と新たなクロス張りの壁面、黒く力強い柱梁と真っ白に輝く繊細な障子といった、いくつもの色、形の拮抗が見られる。
山里の午前中の日差しと薪ストーブが家を暖める
そうした空間が集まって、家全体で、既存の部分と改修した部分が、互いに引き立てあっている。建物の北側を中心に、玄関土間や台所、居間、階段など、家の中で家人がよく活動する場所を改修すると「今まで土間で物置だったところに人が集まるようになった」と息子さん。それが「家族の場」だ。
壁際には香ばしい香りをほなかに漂わせながら、じんわり頬を暖める薪ストーブ。デッキテラスにつながる開口部は、遠く山里の風景を切り取る。ここは以前、薄暗い土間だった。テラスの位置には、2階建ての別棟が立ちはだかり、光も風も見晴らしを塞いでいたのだ。「山里は午前中の光が勝負」とする独楽蔵の改修計画で、別棟は解体された。
「人は火に集まる」と独楽蔵。「火は家の中心に置く。水場はあるけど、『火場』という言葉はない。家の中に火の神さまはあるのに、おかしいよね。」
60年前まで、囲炉裏があったというこの家に、薪ストーブとして、人の集まる『火場』が復活した。おかげで家半分が暖まるようになり、家族の顔もほころんでいる。「火遊びって本当に楽しい」そんなお母さまに、すかさず設計者も「テレビより楽しい」と頷く。独楽蔵のアトリエでも薪ストーブを約30年間使っているのだ。
薪は息子さんが裏山でつくり、消し炭は火鉢に入れて、お湯を沸かす。残った灰は畑にまき、採れた野菜は食卓へ。単なる暖房器具ではなく、薪ストーブは欠かせない生活の一部になっていた。
家を形づくる暮らし
改修の発想はどこからくるのか。独楽蔵では「主役は歳月と生活」と考える。そして「きめの細かい生活が残っていることがデザインソース。季節も行事も日常生活を形にしていくだけ」と続けた。季節や祭事、電灯を大切にするご家族の暮らしが家を形づくっていく。
土間の飾り床にある鈴虫籠を始め、各室で目を惹くたおやかな小物は代々使われてきたモノ、そしてこの家で育った娘さんがご自分の感性で集めたモノだ。そこに彩りを添える草花は、お母さまが裏庭で摘み、しつらえる。9月半ばのこの時期は、ムクゲやススキが揺れていた。しつらえのみならず、」衣替えをするように簾と板戸を使い分けるというご家族。今はもう冬の装いになっているだろう。
2階の寝室
南側の縁側と庭
WORKS:民家の改造 2007 竣工当時の写真
その後の暮らし:【昔の火の道具を、現代の暮らしで再利用】飯能の古民家再生 新しい火の暮らし