埼玉県日高市の新築木造住宅は建築設計事務所/独楽蔵へ

【設計事務所 独楽蔵の家に住むひとの日常】おままごとと木造の家の記憶

【暮らしnote No.11】
writing:maiko izumi

埼玉県入間市にアトリエを構える建築設計事務所 独楽蔵 KOMAGURAが設計した新築木造住宅に住む生活者(maiko izumi)から見える日々の暮らし

子どもの頃、近所に骨組みだけの家があった。

木造2階建ての、立派な一軒家が建つ予定だったのだけれど、柱、梁、屋根といった骨組み部分を完成させる「棟上げ(むねあげ)」までしたところで、施主と工務店が喧嘩別れをしたとかで、工事は止まり、しばらくそのまま放置されていた。大人たちは「早く解決して、壊すなりなんなりして欲しいわ」なんてぼやいていたが、子どもたちは大喜びだった。この骨組みの家は、間違いなく「おままごと」に使えるからだ。

ごっこ遊びでありながら、ステージがもはや、本格的な「家」なのだ。それからというもの私たちは、骨組みの家へ、足繁く通うようになった。玄関を入って廊下の右に、リビングとキッチン。反対側にはトイレと洗面所。突き当たり奥に、もう一つ広い部屋がある。地面に木の棒で線を引っ張ったり、縄跳びを置かなくても、原寸大の家の間取りが完成している。

そこで「おままごと」をしていると、いつもの色褪せたプラスチックのままごとセットも、お茶碗によそった砂のご飯も、だんだん本物に見えてくる。お風呂には、温かなお湯が張られている。家事に忙しいお母さん役の子も、子どもなのでそのままでいい子ども役の子も、じゃんけんに負けてしぶしぶ赤ちゃん役の子でさえ、それぞれの役づくりに自ずと熱が入っていった。例えば、奥の部屋で赤ちゃんが目を覚まして泣いても、キッチンにいるお母さんが駆けつけて抱っこするまで、程よい距離感があり、よりリアリティのある演技が生まれるというわけだ。

お父さん役は、みんなやりたがらないので、誰かの弟に無理矢理やらせるか、お父さんはもう死んだことにするか、のどちらかで乗り切っていた。お母さん役をやる子はだいたい決まっていて、私はほとんどお母さん役をできたことがなく、そもそもそんなにお母さん役にこだわっていなかった。

でも、この素晴らしい家に出逢った時、なんとしても、ままごと遊びのリーダーであり、そして家族物語の中心となるお母さん役をやりたいと願った。

いつもの女の子グループでは、お母さん役を手に入れることは難しいだろう。そう考えた私は、ある日ひとりで、こっそりその家に行ってみることにした。夢にまで見た、私がお母さんの家だ。ひとり、いそいそとご飯の支度をしたり、外に買い物に行って、野菜(雑草)を買って(摘んで)きたり、掃除機をかけたり、みんなにご飯よと声をかけたり、チャイム鳴ったら、エプロンで手を拭きながら玄関に出たり。ああ忙しい忙しい、と言いながらお母さんになりきった。

この家は、私を中心にまわっている、と嬉しくなってくる。しかしどうだろう。思い通りにお母さんをすればするほど、無性にさびしくなってきたのだ。家は完璧なのに、私はお母さんなのに、ひとりぼっちで、誰も返事をしてくれない。がらんとした家で、自分だけの声が虚しく響いていた。おままごとといえば、配役決めからご飯のメニューにいたるまで、それぞれの欲がぶつかり、何かと揉め事が起こる。次第に喧嘩が絶えなくなり、擬似家庭は崩壊。誰かが怒って「もう帰る」と絶交宣言をして終わることが少なくなかった。

ひとりなら、喧嘩もない。絶交もできない。ああ、楽しい。そう言いながら、何故だか涙が出てくる。その瞬間、ごっこの魔法はとけて、私はお母さんじゃなく、ただの小さな子どもに戻った。もう何が悲しいのかわからないまま、ふと上を見上げると、骨組みだけの天井裏に、鶴の絵が描かれたうちわのようなものが架かっていて、ヒラヒラと風に揺れていた。

あれは、一体なんだろう。急に怖くなり、走って家に帰った。その日のことは、多分誰にも話さなかったように思う。しばらくして、骨組みの家は解体され、ままごとは、通常通り、公園の隅っこへと会場を戻した。

家は、住む人と一緒に呼吸をしながら、音や匂いや光や風や、いろんな想いを包みながら、少しずつ、家になっていく。ひょっとすると、あの骨組みだけの家も、家主がやって来るのを楽しみに待っていたんじゃないだろうか。いろんな日常を一緒に過ごしながら、本当の家になりたかったのではないか。

そう思うと、あの日、泣いていたのは、私だけじゃなかったのかもしれないと思うのだ。

建築設計事務所 独楽蔵(こまぐら)では、新築のペットと暮らす木造住宅はもちろん、庭づくりや古民家や中古住宅のリフォーム、リノベーション、現況調査や耐震補強などのご相談もお受けしています。今、お住まいの住宅で、気になっている部分、ご不明な点や疑問点などあれば、電話やメールなどでお気軽にご相談下さい。

建築設計事務所 独楽蔵(こまぐら) 担当:長崎まで
04-2964-1296 komagura@komagura.jp

この住宅の完成時の様子はこちら↓
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