埼玉県日高市の新築木造住宅のデザインは建築設計事務所/独楽蔵へ

【設計事務所 独楽蔵の家に住むひとの日常】「牧野植物園」の庭 ギンリョウソウ

【暮らしnote No.10】
writing:maiko izumi

埼玉県入間市にアトリエを構える建築設計事務所 独楽蔵 KOMAGURAが設計した新築木造住宅に住む生活者(maiko izumi)から見える日々の暮らし

「ギンリョウソウは、もうご覧になりましたか」そう話しかけられたのは、もう何年も前のこと。高知にある「牧野植物園」を訪れた時だった。植物が好きで、好きで、大好きでたまらなかった植物分類学の父、牧野富太郎博士の世界を具現化したような、その自由な空間。五台山(ごだいさん)という豊かな自然環境をそのまま活かした園地には、牧野博士ゆかりの3000種類以上の植物が大切に育まれていた。

広い敷地のあちこちで出逢うスタッフの人たちが、なんだかとても楽しそうで、そしてどの植物も、ひとしく深く愛されている。そんなしあわせな空気に満ちていた。膨大な知識も財産も、閉ざされることなく、植物を愛するすべての人に開かれた「秘密の花園」のようだった。新緑の季節に訪れたこともあって、すべての植物がみずみずしい生命力にあふれている。光と風と戯れながら、木々が歌うのは、爽やかな長調だ。起伏のある園内を旅するようにめぐりながら、帰る頃には、薄い上着を脱ぎ、半袖になっていた。記念館本館を出ると、正門までは、森のなかにふっと迷い込んだような静かな道が続く。

【植物園内の様子】

先の言葉をかけられたのは、その時だった。スタッフらしきその男性は、60代ぐらいの柔らかな空気を纏う紳士だった。「ギンリョウソウがね、とてもきれいなんです」男性は、とっておきの秘密を打ち明けるように、嬉しそうに話す。「ギンリョウソウ」私は、初めて聞いた秘密の言葉を、辿々しく繰り返した。「ええ、銀色の銀、ドラゴンの竜、草で、ギンリョウソウです」と言いながら、彼はその植物の方へ連れていってくれた。

行きに通った時は、まったく気づかなかった。控えめな野草や木々が並ぶ一帯の、そのほんの足元に、ひっそりとギンリョウソウがいた。真白。いや、透明。透き通っている。光っている。10センチにも満たない小さな背丈。存在すべてが透明なので、どこが茎で、どこが花かもわからないが、ひとつあるぽってりと蕾らしきものはその丈にしては大きく、下に垂れている。ちょうど、ヘ音記号のような形だ。

それはまるで、急に知らない人に会わされて、恥ずかしそうに俯いているようだった。控えめだけれど、内側から光を発するようなその色と個性的なフォルムは、今にも歩いたり、話しだしたりそうな佇まいをしていた。こんな不思議な存在を、さきほどの私は素通りしていたのか。

「植物なんですが、光合成をしないので、こんな色なんです。ユウレイソウなんて呼ぶ人もいます。数日前は、もっともっときれいだったんだけどな。元気ないかな。どうしたのかな」男性は、途中から、私にというより、ギンリョウソウに語りかけているようだった。「十分きれいです。初めて見ましたが、本当に神秘的できれい」というと、男性は、「それは良かったです」と何度も頷いた。ギンリョウソウとその男性に見送られて、私は植物園を後にした。

そしてなぜだろう。何年経っても、時々その出来事をふいに思い出す。見逃してしまいそうなもののなかに、ギンリョウソウのような、美しく光るものは確かに存在していて、それを教えてもらったり、自分で見つけたり、誰かと分かち合ったりすることに、幸せはあるのかもしれない。

今の私は、ギンリョウソウを見つけることができるだろうか。

建築設計事務所 独楽蔵(こまぐら)では、新築のペットと暮らす木造住宅はもちろん、庭づくりや古民家や中古住宅のリフォーム、リノベーション、現況調査や耐震補強などのご相談もお受けしています。今、お住まいの住宅で、気になっている部分、ご不明な点や疑問点などあれば、電話やメールなどでお気軽にご相談下さい。

建築設計事務所 独楽蔵(こまぐら) 担当:長崎まで
04-2964-1296 komagura@komagura.jp

この住宅の完成時の様子はこちら↓
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