水戸芸術館は市民のスタンダードになる

久しぶりに水戸芸術館に行って思ったこと

水戸芸術館は、磯崎新さん設計で、完成してから29年経過しています。私自身は、おそらく25年ぶりの訪問です。久しぶりに再会した芸術館は、驚くほど当時の印象そのままでした。管理も隅々まで行き届いており、芝もきっちり刈り込んであります・・・。

管理者によって良くも悪くも変化する建築空間

一般的に、このような不特定多数の人々が利用する施設というものは、管理者による、ちょっとした改修や、看板やサインなどの後付け、利用者による使われ方が変化などによって、当初のカタチや、思想を見失ってしまうケースが多くあります。水戸芸術館もまた、そのひとつではないかという懸念をひそかに抱いていたのですが、それはいい意味で裏切られました。むしろ、ここだけ、時間が止まっているような錯覚を覚えるほど、25年前と変わらぬ空間でした。

水戸の市街地は、他の地方都市同様に、不景気や人口減少などを抱えて、淋しくなっている印象を受けましたが、水戸芸術館だけは、まったくその変化に動じることなく、威風堂々としています。時間が止まったような錯覚さえ覚えるような、ちょっと不思議な感じがします。それがある意味、建築というよりも、遺跡や墓標のような記念碑的な側面を感じることもありますが、決して人々に忘れられて、元気のなくなった空間ではありませんでした。

市民が集まる空間として生き続けている水戸芸術館

ギャラリースペースで行われていた無料の市民美術展を少し覗いてみたのですが、作品の多さ、多様性、そして何よりその熱量に圧倒されました。昔から受け継がれた市民の気質もあると思いますが、この施設がありつづけることによって、芸術に触れる、感じる、創る機会が維持されていて、どっしりと水戸の地に根づいています。

約30年前の竣工当時と比べて、時代の空気感もずいぶん変わってきました。建築は、より軽くて、薄くて、透明なもの。建物自体の存在感やディテールをなくすモノが重宝されています。そんな変化をふまえると、水戸芸術館のように、重厚で、主張のある建物というのは、スタイル的にも財政的な面でも、敬遠される存在なのかもしれません。

しかし、たぶん水戸芸術館は、今後も生き続け、時代を超えて受け継がれ、やがて水戸のスタンダードになっていくのかもしれません。

関連コラム:『マチネの終わりに』とステファニー・アルゲリッチ(水戸芸術館にて)

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