【暮らしnote No.16】
writing:maiko izumi
埼玉県入間市にアトリエを構える建築設計事務所 独楽蔵 KOMAGURAが設計した新築木造住宅に住む生活者(maiko izumi)から見える日々の暮らし
【いつもの散歩道 巾着田へ続く高麗川沿いの旧道】
よく通る旧道の脇に、山道に続く薮(やぶ)があって、桜の開花の少し前から、発声練習を始める鶯がいる。注意深く聴いていると、少々たどたどしい「囀り(さえずり)自主練」は、同じ鶯の声だとわかってくる。彼には、彼なりの流儀があるらしく、まずはホーホケ、ホーホケの箇所だけをゆっくり、念入りに練習する。次にケキョケキョの後半を、結構なスピードで繰り返す。
【高麗川沿いの桜の風景】
いわゆる基礎練習だ。ピアノでいったらハノン。声楽でいったらコンコーネ。地味で飽きそうなのに、彼はそれを延々と続ける。姿かたちは見えないけれど、とても真面目な性格なのだろうと感心する。そんな人柄ならぬ、鳥柄もあってか、ホーホケキョの最終完成形は、なかなか聴かせてくれない。彼の自主練を、密かに聞き守る日々が続く。小さい声だったり、かすれたり、詰まったり。ホーホケ、ホーホケ。ケキョ、ケキョ、ケキョ。
【高麗川に漂う桜の花びら】
しかし、いつまでたっても上達しているのかしていないのかわからない、地味基礎練を聴くうちに、さすがにうんざりしてくる。もう適当に仕上げちゃえばいいのに、とか、ひょっとすると彼は完成形を歌えないタイプの鶯なのでは、と疑い始めた、ある日。 彼の喉が十分に潤うのと、冷たい空気がふっと緩み、花々の蕾がほころぶ瞬間は、おそらく今日だったのだろう。
ホーーー。
厳かな溜めから始まり、続けて空に解き放つように響き渡る、ホケキョ。一点の曇りなき、完璧なホーホケキョだった。そこから、彼の歓喜はもう止まらない。息づきなど存在しないかのような、エンドレス、ホーホケキョ。
ブラボー!
山々の木々や、花々のスタンディングオベーションは、きっと鳴り止まない。
【散歩の途中 いつもの野良ちゃんと遭遇】
私は、この上ない多幸感に包まれた。と同時に、日々の練習をじれったく思ったり、結果ばかりを求めて、彼の実力を疑った自分を、恥ずかしく思った。このリサイタルは、新緑の頃まで、しばらく続きそうだ。
あんなに一生懸命練習して、だからこそ、こんなにも私たちを幸せな気持ちにしてくれる。きっと、彼が想う誰かにも届くはず。そう信じて私は今日も、いつもの旧道を歩く。不器用で、ひたむきな、春の歌を想いながら。
建築設計事務所 独楽蔵(こまぐら)では、新築のペットと暮らす木造住宅はもちろん、庭づくりや古民家や中古住宅のリフォーム、リノベーション、現況調査や耐震補強などのご相談もお受けしています。今、お住まいの住宅で、気になっている部分、ご不明な点や疑問点などあれば、電話やメールなどでお気軽にご相談下さい。
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この住宅の完成時の様子はこちら↓
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