埼玉県入間市の木造新築住宅/リフォームは一級建築士事務所/独楽蔵へ

【設計事務所 独楽蔵の家に住むひとの日常】原っぱは野の草花の宝庫

【暮らしnote No.13】
writing:maiko izumi

埼玉県入間市にアトリエを構える建築設計事務所 独楽蔵 KOMAGURAが設計した新築木造住宅に住む生活者(maiko izumi)から見える日々の暮らし

幼い頃住んでいた家の近くに、大きな社宅があって、その敷地内に広々とした原っぱがあった。のどかな時代だったのだろう。整地もされず、駐車場にもならず、遊具も何もない、まぎれもなく純度の高い”原っぱ”だった。

その原っぱは、社宅の住人でなくても、自由に出入りができた。だからいつも誰かが、原っぱにやって来る。あちらで野球をする子がいれば、こちらでは親子が縄飛びの練習をしている。賑やかに走り回る鬼ごっこのチームもいた。いくつかの遊びが同時進行しても、なんら問題ないぐらいの、懐の深い遊び場だった。

私がその原っぱに遊びに行く目的は、決まって花だった。そこは、野の草花の宝庫だった。

一面に広がるシロツメクサで冠を作ったり、たんぽぽの指輪を作ったり。ぐるりと敷地を囲うフェンス脇の茂みで見つけた数珠玉は、ポケットに大事に入れてゆく。ネコマンマは、ままごと遊びで重宝する。ぺんぺん草は、ハート型の葉っぱを持って、花枝を少し下に剥がしてから、耳元でクルクル回して音を鳴らす。四つ葉のクローバーを見つけるのは、あまり得意ではなくて、それはおそらく勘が悪いうえに、根気と集中力がなかったからだと思う。

特別な能力を持っているかのように、いつも次々と四つ葉のクローバーを見つけだす友だちがいて、私はそれをいつも羨ましく見ていた。遊びに飽きたり、お腹が空いたりすると、少しだけ花を摘んでから帰る。たんぽぽ、露草、ハルジオン。ハハコグサは、白い綿毛を纏った柔らかな葉と茎をしていて、撫でると、こそばゆい。カラスノエンドウは花も、ちちちと整列した葉も、その先にのびるクルンとした巻き髭も、みんな揃って愛らしい。

なかでも、みんなより少し遅れて咲き出すニワゼキショウという、薄紫の花が好きだった。8センチぐらいの小柄な姿。華奢だけどまっすぐな茎と、シュッと切れ味の良さそうな細長い葉が、花を守っている。大人になって、アヤメ科だということを知って、なるほどと腑に落ちたが、優しいのに、凛とした佇まいだ。ぽつんと小さな花の色は淡く薄く、だけど中心はぐっと濃い。下手に触れると、すぐにポトリと落ちてしまう。

花のそばには、ギュッと宇宙がつまったようなまん丸の実があって、ころころと風に揺れる。今日も四つ葉のクローバーは見つけられなかったけれど、私にはニワゼキショウがいる。小さな花ひとつで、しゅんとした気持ちが、ぱっと晴れる。

ただいまと言いながら、背中に隠した色とりどりの野の花束を母に手渡す。するといつも、こちらが照れくさくなるぐらい大げさに喜んでくれた。それから、小さな小さなガラスの花瓶で上手に飾ってくれる。ダイニングテーブルの真ん中に置かれて、花たちは誇らしげだ。「この花は、他の子とはちょっと雰囲気が違う可愛さがあるからね」と、ニワゼキショウだけは、別の細い小瓶に一輪挿しにしてくれた。 「ニワゼキショウが好きなんて、ビテキセンスがあるわ」と真面目な顔で言う母の、ビテキセンスの意味はわからなかったけれど、ささやかなことを褒めてくれて、ささやかな花を飾ってくれた母の存在と、おおらかな原っぱと草花たちが、大人になった私の奥に、確かに息づいている。

また春がやってくる。まだ寒い頃から、少しずつ、順ぐりに、野の花が咲きはじめる。最初は、オオイヌノフグリとホトケノザ。時々、ぺんぺん草。消え入りそうに、ハコベ。そのあとは、もう順番がわからないくらい、いろんな花が咲いてゆく。

大人になってもやっぱり、四つ葉のクローバーを上手に見つけられるようにならなかったけれど、私は野の花を見つけながら、今日も歩いていく。

建築設計事務所 独楽蔵(こまぐら)では、新築のペットと暮らす木造住宅はもちろん、庭づくりや古民家や中古住宅のリフォーム、リノベーション、現況調査や耐震補強などのご相談もお受けしています。今、お住まいの住宅で、気になっている部分、ご不明な点や疑問点などあれば、電話やメールなどでお気軽にご相談下さい。

建築設計事務所 独楽蔵(こまぐら) 担当:長崎まで
04-2964-1296 komagura@komagura.jp

この住宅の完成時の様子はこちら↓
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