埼玉県東松山市の木造新築デイサービス施設「楽らく」の建築摂家事務所

Care(介護)とCulture(文化)が繋がる空間〜東松山の木造新築デイサービス施設〜(後篇・内部空間)

埼玉県のちょうど真ん中に位置する東松山市。かつては城下町、宿場町として栄えた、歴史と品格のある地域です。以前から、この地域で運営されていた高齢者のためのデイサービス施設を移転し、新築の施設を作るプロジェクト。施主である医療法人社団「保順会」責任者のTさんには、この施設を作ることへの熱い想いがありました。それは「老人福祉施設」を「+地域+文化」の活動、情報発信の場にしたいということ。その理念を具現化するために、外と内が緩やかにつながり、あらゆる人々がそれぞれのステージで生き生きと過ごせる、多様性に満ちた空間づくりを計画していきました。前篇の【外部空間】に続き、利用者さんの暮らしやすさ、過ごしやすさを尊重した【内部空間】篇です。

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この施設の外観&庭の紹介ページはこちら

新しい施設は、高齢者のためのデイサービス施設ですが、単なる老人福祉施設にとどまらず、「老人福祉」に「+地域+文化」の活動、情報発信の場にしたい。そして、その理念の具現化したカタチとして、地域のコミュニケーションの場となるような空間をめざしていました。

Care(介護)とCulture(文化)が繋がる空間

クライアントである「医療法人社団 保順会」の法人理念は【患者さん・ご利用者に寄り添い、医療・福祉/介護・文化をつなぐ】。人が人としてかけがえのない人生を豊かに過ごすためには、Cure(治療)のための医療はもちろんのこと、Care(介護、福祉)のチカラ、プラス自己実現のためのCulture(文化)という3つのCの重要性をかかげていました。今回のプロジェクトでは、そのビジョンを具現化していくために、外観、エクステリア、内部と外部の繋がりの活性化を促す、さまざまな仕掛けを考えていきました。

デイサービスが楽しいと、みんながしあわせ。〜五感を使って活動できるホールスペース〜

デイサービスの利用者さんが多くの時間を過ごすのは、機能訓練室兼食堂、いわゆるホールスペースです。機能訓練とは、簡単な体操を行うことで、利用者さんの身体能力を低下させないメニューのことです。利用者さんそれそれ、身体能力や身体機能は違いますので、それぞれの方の状況や、その日の気分にあわせながらのメニューが必要です。イスに座ったままでできる手首の運動などでも十分に効果が見られる方もいれば、筋力の低下を防ぐために日常生活の延長でおこなうような動作、立ったり、座ったり、歩いたりする方も。利用者さんたち一人ひとりが、気持ちのいい時間が過ごせるように、陽当たりのいい広場、小上がりのたたみスペース。ホールからそのまま庭に出られる開口部をつくることで、バリアフリーな外空間をめぐることもできます。

高くて開放感のある天井に大きな丸太梁の存在感が印象的です。テーマカラーのやわらかなグリーンは、内と外をゆるやかに繋ぎます。利用者さんも、ご家族も、スタッフも、施設に関わるすべての方が安心できる、開放的な空間をイメージしました。

完成から4ヶ月経過して、色とりどりの草花にあふれる庭の様子はこちら

施設と地域の人たちが交わる空間

ホールの北側の窓からは、北庭の景色と道行く人を眺めることができます。逆に外の道からは、デイサービスの様子を見ることができます。赤い辻時計に見守られながら、施設と地域の人たちがゆるやかに交わる場所。手を振ってみたり、時には施設のイベントを通して直接会えたり、お話ができたり。世代を超えて、多様な繋がりが生まれることを願っています。

杉(無節)の無垢材をステイン塗料で白く染めた有機的な内装。清潔感のなかに、懐かしさも感じられる空間づくりを心がけました。ひとつひとつの日中活動が、少しでも楽しく、心地良くなるように。

エントランスホールは来訪者を事務室とホール(機能訓練室)、多目的室に振り分ける交差点です。バリアフリーに配慮して、段差のない床仕上げと車いすの利用者さんも使いやすい受付カウンターの高さになっています。

タモ材の縦羽目板で、来訪者をやさしく迎える自然素材の空間に。

AIR(アート・イン・レジデンス)文化と福祉の融合

今回、デイサービス施設を計画するにあたり、もうひとつ大切なテーマがありました。それは【AIR(アート・イン・レジデンス)】。アーティストが一定期間、ある土地に滞在し、普段とは違う文化や環境で、作品制作やリサーチ活動を行うことです。アーティストの創作・生活支援、地域文化の振興のためであることはもちろんですが、地域の人々との交流や情報の共有によって、新しい感覚や文化で互いに刺激をしあうことも目的とします。老人福祉施設の新築計画の打ち合わせの中で、このような話題が出てくることに驚くと同時に、とても感動しました。これからの多様性に満ちた世界を描いていくにあたり、今までの固定概念を解き放つようなアイディアや、他ジャンルの共生は、より求められる要素なのではないかと思います。

地域の人やアーティストが活用できる多目的室

多目的室は展覧会の展示や各種イベントがやりやすいように、展示スペース(壁)の長さを優先に。窓は小さめ。有効幅の広い引き戸を開けるとホール(機能訓練室)と一体利用も可能です。普段は、ホールの備品を一時保管しておく場所としても活用できます。

事務所は施設の司令室

事務所スペースはスタッフのデスクワークはもちろん、車で送迎されてくる利用者さんの動向や、エントランスホールにある受付カウンターへの来客、また、ホールの利用者さんやスタッフの見守りが出来るように、施設の隅々まで見渡すことの出来るスペースでなければなりません。そんな司令塔的な役割のできる場所に計画しました。事務室の窓からは、通りを通過する車やヒトの流れ、庭の草花なども感じ取ることができる有機的な空間です。

AIR(アート・イン・レジデンス)のアーティストが滞在できる空間は、シャワーとトイレ、ミニキッチンが完備の独立したワンルーム。デイサービスの空間とは、完全に独立して創作活動することも可能です。

2階はスタッフの休憩室とロッカー室のみで通常の仕事の場から切り離されたプライベート空間。専用のバルコニーもあります。介護に関わるスタッフの方々のお仕事は、多岐にわたると同時に、非常に神経を使うものと思われます。空間を通して、働く方の環境づくりをしっかりしてあげることが、利用者さんの幸福度、満足度にも繋がります。

浴室、機械浴はこれから設置予定です。利用者のご家族の皆さんにとっても、快適で安全な入浴サービスはもっとも施設に求めることのひとつではないでしょうか。利用者さんもスタッフも、使いやすく清潔感溢れる空間になっています。

writing監修:maiko izumi

このデイサービス施設の間取り図(平面図)

1階平面図と敷地配置図

2階平面図:2階部分はスタッフのみの独立した空間

このデイサービス施設の外観&庭の様子はこちら↓
WORKS:東松山市の木造新築デイサービス施設(外部空間)
この施設のコンセプトイラストはこちら

その後の暮らし:【東松山市:木造新築デイサービス施設「楽らく」】完成から2ヶ月経過
その後の暮らし:【宿根草中心の手間要らずの庭】完成から4ヶ月経過したデイサービスの庭

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関連リンク(クリックすると開きます)

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