古い木立の枝葉が美しい陰影をつくる小路は、まるで緑のトンネル。そんな清涼感溢れる小路を抜けると、雑木林の中に入母屋(いりもや)の立派な日本家屋が現れます。計画地は、埼玉県の西部に位置する所沢市糀谷(こうじや)。敷地の南側には「トトロの森」として有名な狭山丘陵が広がり、昔ながらの里山の風景を愛でることができます。築35年の古き良き日本家屋を、現代の家族の暮らしにあった住まいへと、大規模リノベーション(改修)する計画です。
施主は、神社の宮司さんご家族。現在ある敷地に先祖代々住み続けて、およそ800年にもなるそうです。家の建っている場所は周囲より少し小高くなっていて、時折、気持ちのいい風が吹き抜けます。ご依頼のあった家は、先代のお父さまが35年前に建てた伝統的な日本家屋。お城などでもよく見られる入母屋(いりもや)造の屋根が、印象的です。ここ数年は、神社の社務所として使われていました。今回は、その日本家屋を、現代の家族の暮らしにあった住宅に大規模リノベーション(改修)する計画です。
陽当たりや風通しのいい場所を、家族みんなが集うリビングに。
伝統的な日本家屋の間取りというのは、現代の住まいの考え方とは、大きく異なります。その特徴的な点は、家で一番、日当たりがよく快適な場所は、訪れるお客さまのために使うということ。そして日常的に暮らす住人の部屋や、台所やお風呂などの水廻りは、北側のいわゆる陰な場所に設置します。今回リノベーションするお宅も、南側の陽な空間には、広縁(ひろえん)と客間が配置されている伝統的な日本家屋の間取りでした。新しい計画では、一番居心地の良い明るい場所を、ご家族のスペースとしてのLDKに。そのために、階段や台所も大きく移動して組み替えていきました。家づくりをしていると“家族や男女の役割に対する概念”と“居住空間”というものが、密接な関係にあることがよくわかります。日本古来の美しい様式を活かしつつ、現代的で多様性のある空間にシフトしていくことが、理想的なリノベーションなのではないかと思います。