田舎暮らしの理想と現実〜建築設計士が自邸をつくる・土地探しや家族との話し合いの重要性について〜
今回の施主であり、KOMAGURAの建築設計士でもある、私自身が描く理想的な暮らしとは、川の流れや、そこに付随する季節の移り変わりを感じながら、有機的な日々の暮らしや子育てを楽しむことでした。長い敷地探しを経て、ようやく高麗川沿いの場所に出会うことができたら、すぐに周辺のリサーチに入ります。小さな子どもがいることもあり、自然豊かなことはもちろんのこと、教育環境や交通の利便性、生活においての暮らしやすさも慎重に検討していきました。子育て世代の住まい選びというのは、夫婦での話し合い、価値観の相違点を確認する作業が非常に大切だと思います。また新しい暮らしで、どうしても譲れない条件は何かを明確にすることで、より心豊かな日常を描くことができるからです。我が家においては、街なかと里山の、程よいバランスを取ることをポイントに何度も話し合いを重ねました。とはいえ、先のことはどうしてもわからないこともあり、時には直感やポジティブな行動力で決断する思いきりも大事なのかもしれません。
今までも、さまざまなお客さまの家づくりに関わらせていただいていましたが、いざ自分の家を建てるとなると、クリアしていくべき課題の多さに、あらためて気づかされます。自身の人生の経験が、また設計のアイディアや、お客さまとの関わりに、反映されていく。その奥深さに気づくことができたことも、自邸を設計することの大切な過程と考えています。
敷地の川岸の崖に生えていた巨体な欅や榎などの雑木の枝ぶりは、とても躍動感があり、これも土地選びのポイントとなりました。川の向こう岸にも、雑木や針葉樹、竹などが自生しており、視界の中に人工物が一切入らないというのも魅力的です。川の景色の借景と広い空が、暮らしの一部になっていく。そんなことをイメージしながら、新しい空間を描いていきました。
新しい建造物を建てる際は、周辺の環境をよく見渡し、“調和と主張”のより良いバランスを見極めていくことが大切であると考えています。
自然と暮らす・高麗川と家の関係性〜高麗橋から見た景色〜
この敷地を購入した一番の理由は“毎日、川の流れを眺めながら生活ができる”こと。そのコンセプトに対応するように、リビングの南東側には、幅3400mmの木製ガラス引き戸を配置しました。ガラス戸を2本引きにすることで、丸々全解放することも可能です。使い勝手も考慮して、網戸も収納されています。大切な風景を生かすために、どの方角に向かって、どの程度の開口部を設けるかということを常に考えています。
川沿いの家、メリットとデメリット〜川の近くは地盤が悪いのか?〜
川や崖の近くに家が建っているので、よく、友人や知り合いから「崖が崩れて、家が落ちてしまう心配はないか?」とか「増水の際に、崖がくずれるのではないか?」と心配されることがあります。我が家の崖部分は、長い年月の間、水に流されることなく、同じ状態を保っています。地盤調査の結果、硬くて大きな岩盤でできていて、安定した地盤であることも確認しています。
川沿いの暮らしを検討する際には、人が永く住み続けている集落等があるか?また川の形成を人工的に変えていないか?ということがポイントだと思います。新しく切り拓いてできた土地は、人工崖の上に分譲地を作ったり、開発の際、川の流れを不自然に変えたりしていることが少なくありません。そういった自然の摂理に逆らった人為的な開発や造成は、川の増水や氾濫、崖崩れなどの事故を引き起こす可能性をより含んでいるように感じます。
自然を感じる暮らしがしたいと思ったら、まずは人間が、自然の営みや風土に寄り添って、謙虚な気持ちを忘れずに“ほどよい暮らしやすさ”を模索していくことが大切です。川も山も、人間も生き物も、それぞれの領域や尊厳を脅かすような暮らしは、きっとしあわせでないと思うからです。
大きな川沿いの暮らしは安全か?〜地盤調査で見えてくるメリット〜
意外かもしれませんが、大きな川の隣接地は、砂利層で地盤がいい場合が多いのですが、この敷地もその同じ例だと言えます。実際に家が建っている部分も、地盤調査の結果、厚い砂利層が分布していて、地盤的にも強固で安定していることがわかっています。