構造的に、永く住み続けられる古民家へ〜『耐震補強+リノベーション』で古民家を現代の住空間に再構築〜
古民家のリノベーションというのは、その建造物の“築年数”によって、その後の流れも大きく変わります。今回は、約100年前というかなり古い時代の建物なので、もちろん基礎も断熱材も構造壁もありません。そういう場合、まずは間取り以前に、基礎や構造といった根本的な建築要素を再構築し、現在の住空間や現代生活に見合うようにシフトしていきます。
新しい暮らしは、デザイン的な“雰囲気”を整えただけでは成り立ちません。耐震性や居住性、現在の状態をふまえて“古民家らしさ”をどこまで残せるか?といったさまざまな課題を、予算と擦り合わせつつ、お客さまにとってのベストな答えを一緒に探していく過程が必要です。古民家等のリノベーションの際は、特にこのような点をしっかり見極めていくことが大切といえるでしょう。
今回の施主であるご主人は“古民家再生”という課題に向かって冷静に、かつ論理的に進めていける方でした。と同時に、新居で初めての薪ストーブに挑戦したり、趣味のロードバイクの見せる収納を愉しんだり、新しいものへの知的好奇心にも長けていて、まさに理想的なバランス感覚の持ち主。この地で永く息づいてきた古民家に、新しい風を上手に吹き込む。そんなご家族にふさわしく、落ち着いた空間づくりを進めていくことになりました。
旧広縁から、新しくリビングになった南側(前面)はデッキテラスに
まず、建物の外周に新たにコンクリートの基礎を増設し、建物全体を基礎や新しい外壁で覆うことによって、耐震性、耐久性、断熱性を向上させていきます。
今回の大規模改修にあたって、計画前に小屋裏(天井裏)を調査したところ、棟札(むなふだ)を発見しました。棟札というのは、建築物の創建や修理の際に、その詳細を木札などに記して棟や梁に付けた建築記録のことです。屋根の垂木に釘で打ちつけられていた板は、囲炉裏の煙で燻されて真っ黒でしたが、板を取り外すと内側に建物の正確な築造年数が書いてありました。
時を超えて、遙か昔の職人たちの、技や心意気のようなものを受け継いでいく。そんな邂逅が生まれるところにも、古民家リノベーションの醍醐味があります。
古民家の面影を踏襲しながら、現代的な心地良さを添えた玄関
現代の心地良い暮らしにシフトするために〜古民家リノベーションは既存の間取りの見直しが大切〜
間取りについては、日本家族の伝統的な「土間+和室(8畳+8畳)の間取り」を現在の生活に合わせて、再構築します。伝統的な日本家屋の間取りの特長は、家の一番居住性のいい場所を、客間や広縁として使い、家屋の“陰”な面を持つ北側には、住人の寝室や水廻りが置かれるということ。客人をもっとも良い空間でもてなすという、日本人ならではの心遣いですが、現代の暮らしにはそぐわないところもあります。リノベーションに当たっては、既存の間取りをリセットし、1番居心地の良い“陽”な空間に、家族が1番集まるリビングを配置していきます。
ダイニングテーブルは造り付け。部屋の雰囲気に合わせて、ご家族が椅子や照明をセレクトしました。
この家で採光、通風、庭の眺めが一番いい場所をリビングに
旧和室の北側に、すっきりと清潔感のあるアイランドキッチンをリフォーム〜新しい風を吹き込む、古民家再生の楽しみ〜
キッチンは旧和室の北側にあった襖や壁を取り除いて、現代的なアイランドキッチンを配置しました。元々あった長押(なげし:日本建築に見られる部材で、和室の装飾的な要素)で、ちょうどレンジフードが隠れるデザインに。北側でも、開口部の広いリビングとシームレスに繋がっているので、明るく気持ちの良い空間になっています。